依頼者からの借金体験記

青空と債務整理

7章

10月の初め、午前の仕事中に携帯が鳴った。山辺さんからだった。私はまわりの耳があるので、電話には出なかった。10分後、会社から200メートル離れた電話ボックスまで歩いていき、「シン・イストワール法律事務所」へ携帯をかけた。山辺さんに取次いでもらう。用件を聞くと、

「お渡しする書類がまとまりました」山辺さんは言った。「これで小宮山司法書士への依頼の件は終了させてもらいます」

私は何を言っているのかわからなかった。終了って、どういうこと? が、すぐに、陽が射すように心が明るくなってきた。

「っていうことは、免責になったのですか」
「ええ。ちょっと連絡が遅れましたが、すべて終わりました。ご自宅に免責許可決定の本文等やお預かりしていた書類を送らせていただきます」
「いろいろお世話になりました。小宮山さんにもよろしくお伝えください」
 
免責になった日がいつかもわからぬまま、私の「債務の整理」は、終わったのだ。すべて終わったのだ。センチメンタルな感情が入り込むこともなく、あっけなく、たんたんと、終わったのだ。
私は電話ボックスを出ると、空を見あげた。秋の筋雲が高く漂っていた。清々しい青空だ。
 
私は空に向かって、希望の溜め息を吐いた。

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