依頼者からの借金体験記

任意整理が救った多重債務地獄

第3章

主人の言葉が、まるで悪魔の呪文のように

ところが、夏休みも近くなったある日、主人から「夏休みはどこに行く?」と言われたのです。釣りも兼ねて八丈島に3泊4日で行こうと言い出す主人。保育園に通う子供2人を含め4人で3泊の旅。八丈島だと飛行機で行かなければなりません。車なら安上がりですが、いくら八丈島までとはいえ、飛行機となれば割高です。最低でも15万円は用意しないとならないでしょう。

しかし、私が訪問販売の仕事でマイナスを出し、生活費の足しに10万円をキャッシングしたことなど主人は知りませんし、言えるはずもありません。仕方なく、旅行の前に同じ会社から、再び15万円をキャッシングしました。
こうして、わずか3カ月の間に25万円も借金をしていました。最初にキャッシングしたときには、あんなにドキドキしていたのに、2度目のときには、実に冷静にATMの操作をしていた自分に驚きました。不思議なもので、人間は1度借金をすると、借りることに慣れてしまうのでしょう。今、考えるととても恐ろしい心理だと思います。

借入はすぐに膨らみ総額300万円に!

それからも、返済をして借入限度額の枠ができると、また限度額ギリギリまで借りるというパターンを繰り返していました。25万円の借入額は、あっという間に50万円、100万円と増えていきました。しかし、月々の返済額は2万円から3万円、3万円から4万円とゆるやかに増えていくだけでしたので、そこまでの金額を借りている気分が実感としてなかったのです。
ATMから出てくるお金は、あくまでも借りたお金なのに、まるで自分の口座のお金を引き出したように錯覚してしまうのです。こうして、最終的には5社から総額300万円近くを借りるはめになり、毎月の返済額も8万円近くになっていました。

すでに訪問販売の仕事をやめ、再びパートに出ていたものの、パート代のほとんどは返済に消えていきます。しかし、そんなこととは知らない主人は、以前のように連休が近づくと「今度はどこにする?」と聞いてきます。その頃になると、主人のこの言葉が悪魔の呪文のように聞こえ、まるで金縛りにでもあったような気分になっていました。「あのさぁ」と主人に言われるたびに、心臓が止まるような思いでした。

そんなある日、初めて借り入れをしてからちょうど3年目の4月でした。主人から車を買い替えたいから、頭金として20万円を用意しておいてと言われたのです。
その頃には、5社への毎月の返済総額8万円は、すべてを一度に返せない状況になっていました。借金返済のために別な貸金業者から借金をするようなもので、借金を1社に返して限度額の枠が何千円かできたところで、すぐにそれをおろして次の業者の返済に充てていました。情けない話ですが、2万、3万の枠ではなく、たった3千円、5千円の枠でも引き出していたのです。それでも3社目の返済額には足りず、催促の電話が来ると、何とか次のパートの給料日まで待ってもらって返しますが、すぐに次の返済が待っています。

主人の給料から住宅ローンなどを払い、食費は少しでも安いものを買うようにし、月の食費は4人家族2万円でやりくりをしながら、少しでも返済に回せるようにしていました。保育園に持たせる子供のお弁当も、ご飯にかけていたふりかけまでも節約する日々。電気代や電話代などは、支払期限を過ぎ督促が来てからもギリギリまで支払をずらし、時には電話が止まってしまうこともありました。自転車操業そのものの生活でした。
しかし、主人は元来がのんきな性格でしたので、電話が止まってしまったときにも、「払うの忘れてたわ」と言えば、「じゃあ、明日は払ってきてね」と言うだけでした。「申しわけない」という思いと、「バレなくて良かった」という安堵の思いが複雑に入り乱れていました。

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