債務整理コラム

鏡の向こうを歩く 1

1. 債務者は千差万別。しかし共通点もある。

借金のある人を債務者と呼びますが、一口に債務者といっても中身はそれこそ千差万別です。サラリーマンをしていたものの、にわかに会社が倒産してしまった人、経営者として資金繰りに困った人、アルバイトだけれど収入以上の買い物をし過ぎた人、旦那さんの借金が発覚した専業主婦の人、多重債務で苦しんでいた上に病気の治療費のために止むを得ずヤミ金から借入をしてしまった人……。

当所には性別・年齢・職業・学歴など、様々な人が債務整理の相談をしに訪れられます。一人として同じ債務状況の人はいません。しかし借金の返済ができずに悩んでいる人にはある共通点があります。それは借金によって先のことまで考えられなくなっている点です。

債務者は先のことが見通せない。これはある意味で当たり前のことといえます。お金の面で先が見通せなくなったからこそ、債務整理を考え出したのですから。しかし「考えられない」ということと「考えていない」ということはまるで別です。

たとえば経営者の方ならば大体の方が来年の事業などについて考えていることでしょう。結婚をしたばかりの方やお子さんが生まれた方なども先のことを考える人が少なくありません。しかし借金の返済に生活や事業が圧迫されるとそんなことは考えられなくなります。一ヶ月後の返済日までにどうやってお金を作れば良いか。頭の中はそればかり。状況がひどくなれば二日後に借金の返済をして、それが終わればまた次の返済日となる三日後のことを考えるという具合です。これではとうてい来年の事業や子どもの行く末など案じるひまがありません。

2. 二十歳の子どもが問われることに答えられますか?

入社試験を受けた方の多くは経験があると思いますが、会社から問われる面接事項の中には「五年後のあなたはどのような人物になっているか教えて下さい」といわれるものがあります。これはステレオタイプな問いですが、答えるのはけして容易ではありません。借金が全然ない人であれば、一年後の自分の生活を問われれば漠然と予測はつきます。今の延長線上にあるためです。三年後であれば、たとえば資格試験のような目標があれば、それについて述べることもできるでしょう。しかし五年後となるとなかなかそうはいきません。

では、どうして企業は面接者の五年後について問うているでしょうか。それはその人の計画性を見ているためです。世界征服だとか、火星に着陸というような小学生のような目標でない限り、今後の目標をきっちりと立てているということは、同時に目標をそこから逆算して、今現在の生活がきちんとそれに則っていることにもつながるためです。

日本の入社試験は一般に新卒を採用することがほとんどです。これはつまり先述した「五年後の自分は?」という問いに、二十歳もそこそこの学生たちがしっかりと答えられていることを意味しています。では、改めて問いますが、このコラムを読んでいる方はその問いに答えられるでしょうか。

3. 鏡の向こうも見てみよう

率直に述べますが、借金問題で苦しんでいるのに債務整理を行わないのはあまり褒められたものではありません。借金の整理をすることで、よほどに恩がある取引先や連帯保証人などに迷惑がかかると思い込み、脂汗を垂らしつつ借金の返済を続けているのであれば、それはもちろん見上げた行為です。しかしそれですら任意整理を行えば周囲に迷惑がかかることはありません。ましてや自分のプライドばかりが先行して債務整理を行わず、借金を抱えた事実を誰にも話せずに抱え込んでしまっているのは到底見上げた行為であるとはいえないのです。

債務者に限らず、お金のない人の気質は本当に様々です。気の良い人、傲慢で偉そうな人、頭は良いのに金遣いの荒い人、世間知らずで井の中の蛙な人。心根が優しくて他人の苦労も引き受けてしまう人など、一つひとつを挙げたら本当にきりがありません。

対してお金持ちの人はシンプルな生活の人が少なくありません。また彼らには共通する特徴があります。ワイドショーで取りざたされる散財こそがすべてというようなセレブを除けば、お金持ちの多くは皆、どちらかといえば倹約家です。そして謙虚で素直です。人を見る目があって「この人のいうことは自分にとってためになるな」と思えば「いや、自分はこう思う」との思いをグッと喉の奥に飲み込んででも素直にそれに従います。

そしてもう一つ。彼らは思考や行動がとても丁寧です。一つひとつの行動にぬかりがありません。先の計画まできちんと立て、普通の人ではとてもじゃないけれど「面倒だな」と思うような細かな事柄にもしっかりと目を通します。

借金で首が回らないといっている債務者の方にお金持ちの話をするのは一見すると皮肉なようにも思えます。しかし借金がある人にこそ実はこの話が重要なのです。たとえば債務整理をするにせよ、コツコツと返済をするにせよ、いずれにしてもその行動が計画通りに進めばやがて借金はゼロになります。借金がゼロになるとどうなるか。これまで通り、きちんとお金を稼げばそのお金は自分の手元に残るのです。

借金がないけれど、別に貯金があるわけでもない。この地点をゼロとすれば、お金持ちの世界は鏡の向こうに存在するようなもの。しかしそこに至るまでの道のりはけして複雑なものではないのです。

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