債務整理コラム

「総量規制」の陰に

東京電力のずさんな対応が日々批判に晒されています。2005年の時点で野党が原発の安全管理について質問をしていたにも関わらず、政府側および東電はその問題に関して「大丈夫だ」の一点ばりで無視を決め込んでおりました。この点からも政府および東電の無責任ぶりは露呈しています。

組織は大きくなるほどにその動きが緩慢になります。計画を立ててから実施するまでのスパンが数十年、場合によっては百年単位にも渡るため、ときどき「今なぜこの自体にこんなものが」と言われるような工事が政府主導で行われることは珍しくありません。八ッ場ダムや諫早湾の埋め立て計画などはその最たるものと言えます。

さて、まるで他人事に思えるほど規模の大きな政府事業ではありますが、最近になって貸金業界にも大きな影響を与えたある事業があります。それは「総量規制」の問題。

そもそも総量規制とは個人収入の3分の1以上は融資してはならないと言うものです。これは一見すると消費者金融の金利があまりにも高すぎるため、破産者を減らす意味合いで作られたもののように見えます。しかし大元をたどっていくと、実はそれは大きな間違いなのです。

「総量規制」と言う法案はそもそも1990年代バブル期に立案されたものでした。ただし、これはいわゆる貸金に用いられたものではありません。多くの方がご存知だとは思いますが、バブル期は不動産投資によって時価が異様に高騰し、空前の好景気を呼び起こしました。しかし、適性価格からあまりにも乖離した不動産価格に政府は懸念を持ち、この金利の伸びを抑えるために総量規制が立案されました。ところがこれは思わぬ副作用をもたらしました。バブル期の崩壊です。金利が抑制された結果、これまで不動産転がしに夢中になっていた人々が総量規制によってにわかに「これでは大損だ」と気づき、慌てて売りだしたのがバブル崩壊の始まり。このため、総量規制は現在に至るまでの不景気の一端を担っていると言っても過言ではありません。

市井の景気が悪くなるとにわかに伸び始める業種があります。貸金業です。00年代にはアコムやらプロミスやらのCMが蔓延していたことは皆様も容易に思い出せるはず。この時期、バブルの破綻によって多くの人々が多重債務に陥り、返済に四苦八苦し始めました。大きな誤解ではありますが、債務整理についてあまり多くの知識を持ち合わせない一般の人々は「債務整理=自己破産=人生の落伍者」と言うような図式が頭にあるため、自己破産だけは何とか避けたいと言う思いに駆られていたようです。その結果、大手の消費者金融が成長するにつれ、その裏でヤミ金市場も大きく繁栄し始めました。

こうしてヤミ金市場が興隆してきたその結果、政府としては再び重い腰を持ち上げざるを得なくなります。しかしながらそのお役所仕事はバブル期の破綻とまったく同じ言葉・同じ行為を多重債務者に繰り返したのです。これが前述した貸金業に関する「総量規制」です。

貸金業に対する「総量規制」は、貸金業法の改正案の中に盛り込まれたものです。そしてこの貸金業法の改正の目的はヤミ金を抑制することが大きな目的の一つでした。しかしこの法律の改正によって、今まで貸付を行なっていた大手の消費者金融は倒産し、小口はヤミ金として法律の陰に潜むようになってしまいました。貸金業への総量規制は明確なヤミ金対策の意味合いを含んでいます。しかし専業主婦や無職の人々が法律によってお金を借りられなくなり、それを何とかするために、闇に潜んだ小口の消費者金融を頼る。これでは本末転倒も甚だしいと言っても過言ではありません。

当所は貸金業に関する総量規制そのものをけして悪く捉えるものではありません。今まで曖昧であったグレーゾーンの撤廃や過払い金の請求などは確かに破産者を減らすことに役立ったでしょう。また、統計的にもこれまでと比較して、破産者の数は大きく減らすことができるようになったはずです。しかし、今まで自転車操業で中小企業を営んでいた人や無職・専業主婦の人などは、この総量規制によって融資を受けることができなくなってしまいました。要するに一次現場に立っているものからすると政府の行動はあまりにも「ずさん」なものに見えてしまうのです。

このように元々「総量規制」が呼び起こした不景気によってバブルが崩壊し、多くの人々が借金生活に陥りました。東電のようなお役所仕事の陰で嘆いている人々は何も被災地の方々ばかりではありません。実は多重債務に陥って苦しんでいる人々に対しても、政府はその責任の一端があるのです。

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