依頼者からの借金体験記

借金地獄からの脱出

第1章 - 借金苦悩

◆夢に描いた独身貴族のアーバンライフ

i_01.jpg10月初旬、9月末までしつこく続いていた残暑も治まりを見せ、ここ数日は秋らしい爽やかな風が吹く、抜ける様な晴天の空の下。私は今、長いトンネルをようやく抜け眩しい日差しの道を歩いている。先程『任意整理』終結の合意和解書を受け取ってきたところだ。
この任意整理という結論にすぐに辿り着いた訳ではない、ここに至るまでには様々な苦悩と葛藤の日々があった。
事の始まりは2年前に軽い気持ちで契約した、2つのクレジットだった。
当時、親元から離れ一人暮らしを始めたばかりの私の部屋は、駅から徒歩3分、少し広めの1LDKで家賃は1ヶ月12万円と少々高額。
月の給与が手取りで30万円の私にとって、遣り繰り出来ない金額ではないと、高を括っていた。
それでも部屋探しの最初から12万円の家賃を覚悟していた訳ではない。
当初の予算は1ヶ月7万〜8万円の範囲で考えていたのだが、新築の広い好立地物件をいざ見せられると、魅せられてしまった。
そして今度は、電化製品と家具の購入だが、お金が足りない。
100万円程あった私の虎の子貯金は、入居の際に掛かる、敷金2、礼金2、仲介手数料1、前家賃1、消費税等で残金20万程になっていた。
せっかく無理をして新築の部屋を借りたのに、実家で使っていた昭和生まれの家具や電化製品を並べては、全てが台無しになってしまう。
夢に描いた独身貴族のアーバンライフが音を立てて崩れてゆく。
まだ窓際のカーテンすら付いてない、がらんとした部屋の中で、そんな事を考えていた、外灯の明かりが眩しくてなかなか眠れなかった。
数日後、私はデパートの家電売り場で目を輝かせていた。
今後の生活費等を考えると、勿論それらの物を買う現金は無い。
しかし、このまま電化製品や家具類が無いと通常の生活が出来ない、そればかりか、かえって浪費を生む結果になるのではなどと、自分に都合の良い理屈を完成させるまでには、それほど時間はかからなかった。
そして解決方法は簡単である、クレジットカウンターに座り、多少面倒臭い用紙に、名前や住所や勤務先等を書き入れ、後日銀行印を捺印した一部書類を、クレジット会社まで郵送すれば、今欲しい電化製品と家具類が自分の物になるのである。
主な電化製品と家具類を買い揃え御満悦な私は、その足で別のデパートに向かった、キッチン用品や雑貨等を買い揃える為に。
手持ちの現金は無い、無論クレジットで購入するつもりだ。
都合の良い理屈を言えば、仕事の合間の休日に全てを買い揃えて1日も早く通常の生活に落ち着く為である。

本日2枚目のクレジット用紙を書き終えると、充実感でいっぱいになった、これでようやく華の新生活がスタートできる。
クレジット契約をした事に、多少の懸念が無いかと言えば嘘になるが、自分なりに計画は立てているつもりだ、直ぐ必要でいずれ買う物であれば、少々の金利を払ってでも今購入する事は必然であり、浪費ではないと思う。
私の初めての一人暮らしは、こうして順調な滑り出しを見せたが、同時に底の見えない大きな暗い穴へ堕ちて行く滑り出しでもあった。


◆ぎりぎりの生活、そして…

i_02.jpg 引越しをしてから暫らくが過ぎ、生活も徐々に落ち着き始めている。
毎日通う駅の改札やホームも目新しい景色ではなくなってきた。
先週、一人暮らしを始めてから2回目の給料日が来た。
いつもであれば、1ヶ月で一番嬉しい日なのに、今月は何故か虚しい。
正確に言えば、『今月からは』かもしれない。
無償で手に入れた、憧れの一人暮らしセットの報酬が回って来たのである。
当然の事であり、分かっていた事なのだけれど、心が寒い懐も寒い。
今月は残り5万円でどうにか切り抜けなければならない、次の給料まで耐えればと言っても、あと25日も先の話である。
そんなぎりぎりの状態は、そんなに長くは続かなかった。
日常生活費が底を付いたのである。
通勤用の定期代まで使ってしまって、このままでは仕事に行く事すら危うい。
今、仕事を失ったら、それこそ一貫の終わりだ、どうにかしなければならない。
困惑している私の頭の中に『キャッシング』の文字が過ぎる、そして実際にその手段を選んだ、俗に言う、『自転車操業』の始まりである。
キャッシングというのは恐ろしいもので、手にした現金は、返さなくてはいけないお金なのに、恰も自分で得た通常収入、若しくはそれ以上に簡単に使い果たしてしまう。
そして今月の支払をする為に、又新たなキャッシング用のカードを作った、次の月も、そのまた次の月も、1ヶ月〜2ヶ月に1枚のペースで、作り続けた、もう止まらなかった、止まったらそこが全ての終わりの様な気がした、こんな短期間でここまでになるとは思わなかった、まさか自分がこんな状態になるとは考えた事も無かった、でも今目の前にその現実があった。

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