債務整理コラム

夜逃げをすると人生の再建が図れなくなる 〜田中さんのケース 1〜

夜逃げ自体は合法行為

多重債務に陥った人の中には夜逃げを図る人もいます。夜逃げというのは一概に悪いことと捉えられていますが、実際にはストーカーに追われていたり、離婚の話がこじれていたりということで夜逃げをする人も少なくないようです。実際、離婚問題がこじれてDVなどが生じたために、警察や役所に相談したところ、行政側の勧めで夜逃げを行ったという話も存在しています。

このように夜逃げ自体は合法的な行為です。しかし、たまりにたまった家賃が払えなくなったとか、もしくは毎日借金の取立がきて、もうどうにもならないといった理由で夜逃げを図ると行き詰まってしまいます。

では、なぜ借金を負った人が夜逃げをすることはおすすめできないのでしょうか。

田中さんのケース 1 夜逃げの決意

田中一郎さん(仮名)はサラ金5社から借金を重ねた多重債務者です。毎日のようにサラ金から返済の催促の電話がかかってきており、加えて取立屋もひっきりなしに自宅のチャイムを鳴らしています。債務超過に陥っている田中さんは、サラ金への返済ができない上に、家賃も支払いが滞っています。家賃の滞納は既に三ヶ月。居留守を使ってはいるものの、サラ金にまじってどうやら大家も家賃の催促に来ているもようです。

サラ金はもちろん、大家につかまることも恐れた田中さんはなかなか外へ出られません。アパートの窓は閉めきってカーテンが閉じたまま。部屋の床には、ゴミ出しできずにたまったカップラーメンの空き殻が溜まり、異臭を放っています。電気を使うことももったいないため、田中さんは暗い部屋の中で膝を抱えているだけの日々。

しかし、あるときついにお金が底を尽き、田中さんは思い立ちます。このままではいけない。何とか借金を踏み倒して人生をやり直さなければ。強い決意はたちまち胸の中で炎のように渦巻き、田中さんは逃走を考えだしました。

田中さんのケース 2 逃亡まで

昼間は取立屋や大家が来る可能性もあるため、やるなら夜逃げしかない。運転免許証などの身分証明やわずかな衣服、なけなしの数千円をボストンバッグに詰め込み、田中さんは夜になるのを待ちます。

普段であればピンポンピンポンと絶え間なくなる取立屋のチャイムに対して、うるさいなあと独り事をつぶやくだけの田中さんでしたが、この日ばかりは妙に胸にこたえます。もう彼らと会うことは二度とないんだ。そう思うとなぜか、一言だけでも返事をしてみたい衝動にも駆られます。しかしその気持ちをグッとこらえ続け、ついに夜を迎えました。

深夜、午前二時。外は物音ひとつしません。頃合いを見計らい、田中さんは音を立てないようにほんの少しだけ扉を開きました。たちまち流れ込んでくる冷たい空気。扉からそっと顔を覗かせてみると、周囲には人の気配もありません。

田中さんはボストンバッグを抱えたまま、音を立てないように扉を閉め、部屋の鍵をかけました。カチャリという甲高い音に思わずビクリとしましたが、時間稼ぎのためにはどうしても部屋を閉じる必要があったのです。

バッグを胸に抱え、田中さんはアパートの外へ。久しぶりの外。冷たい空気。無機質な街灯に照らされながら、田中さんはアパートの前の道をゆっくりと歩き、ついで駅のある方角へと角を曲がります。

角を曲がり、アパートから離れること数百メートル。もう誰の目にも留まらないことを感じるや、不意に田中さんは何かに追われるかのように必死でかけ出しました。

田中さんのケース 3 夜逃げ 最初の一日目

駅につき、電車に乗った田中さん。

誰にも追われない。その感覚はかけがいのないものであるかのように思えました。しかし、いざ夜逃げをしてみるとなぜか心が妙に寂しい。毎日のように田中さんの胸をかき乱していた、あの、いつもの取立屋たちの声ですら、なんとなくまた聞きたくなってしまうほどの空虚感に苛まれていたのです。

人恋しさを感じた田中さんは気の向くまま、繁華街へと足を運びました。きらめくネオンの下、雑踏の合間を縫いながらますます不安を募らせる田中さん。

寂しい。

どこか入れる場所はないかと向かった先はまんが喫茶でした。次の日まで1800円。痛い出費ですが、寝る場所にもなります。しかもパソコンを借りないなら身分証明も不要。まんが喫茶の個室に荷物を置いた田中さんは、次にコンビニへと足を運びます。

田中さんが熱心に立ち読みしているものはアルバイト情報誌でした。情報誌に載っている「軽作業」などのアルバイトは、身分証明を求められものもたくさんあることを田中さんは知っていたのです。

情報誌を買うお金がもったいないため、軽作業の派遣を行う登録会社の住所を丸暗記。電話ではなく住所を暗記したのは電話代を節約するためです。そうしてその夜はまんが喫茶のフリードリンクだけで食事としました。

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